マイクロアグレッションという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
マイクロアグレッションとは差別の一種であり、直訳すると「小さな攻撃」という意味です。
悪意のない小さな差別「マイクロアグレッション」について具体例を交えながら解説していきます。
また、マイクロアグレッションの対処法もまとめました。
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マイクロアグレッションとは?
マイクロアグレッションとは、悪意のない小さな差別的な言動のことをいいます。
例えば、米国で生まれたアジア系アメリカ人に「どこの出身?」と聞くこと。
(そのほかの詳しい例は後述しています)
上記の例は、アメリカ生まれアメリカ育ちであるのにも関わらず、
肌の色や目の大きさなどの外見を理由に「あなたはアメリカ生まれではないだろう」と判断されて質問されているんです。
こうした例を筆頭に、性別やセクシュアリティ、また人種的・民族的マイノリティの分野で問題提起されています。
マイクロアグレッションの意味・概念
マイクロアグレッションは「明らかに差別だ!」とは判断しにくいものでありながら、
相手を傷つけてしまう可能性を含んでいる恐ろしい差別の一種です。
これは差別にあたるのか?と問題になると、悪意の有無が論点になることがしばしばあります。
しかし、大概の差別に悪意はなく、自覚症状がないことがほとんどなんです。
社会的マイノリティ(少数派)の人たちが受けている日常的な会話の中に潜んでいます。
知らず知らずに使っている表現が実は「マイクロアグレッション」なんてことも。
マイクロアグレッションの語源
マイクロアグレッションは英語で「microaggression」と表記されます。
小さいを意味するマイクロ(micro)と、攻撃を意味するアグレッション(aggression)の2つの言葉が組み合わさってできた言葉です。
マイクロアグレッションの歴史
マイクロアグレッションという言葉は、1970年にハーバード大学の精神科医チェスターM.ピアスによってつくられました。
2000年代に入ってからコロンビア大学のデラルド・ウィング・スー教授が再定義し、さらに多くの人に知れ渡りました。
マイクロアグレッションの特徴
マイクロアグレッションの最大の特徴は、発する側に悪気がないこと。
さらに「相手の傷を過小評価する癖」があります。
発する側は「気にしすぎだよ〜!」「そんなことくらいで傷つくなんて」と自分は悪くない方向へと持っていくのが上手なんです。
しかし、マイクロアグレッションを受けている側は1回限りではなく、彼らの人生で何度も何度も続くんですよ。
そのために両者の間には天と地ほどのギャップが生じています。
例えば、小さな石ころを投げられたとします。
投げた側は石を投げたことには気づいていません。
投げられた側は「小さな石ころだし、それほど痛くないからいいや」と最初は思っていても、
身近な人や見知らぬ人から毎日毎日繰り返し石ころを投げつけられたらどうでしょうか。
積み重なる小さな攻撃が大きな傷を作っているわけです。
マイクロアグレッションと差別の違いは?
よく「マイクロアグレッションと差別の違いは何ですか?」と聞かれますが、
冒頭でも述べた通り、マイクロアグレッションは差別の一種です。
ですが、「悪気がない、無意識に発せられる」という点において、この差別をなくすのはとても難しいんです…。
この記事では、多くの例文を掲載しているので、気になる方はもう少しだけ読み進めてください!!
マイクロアグレッションとカバードアグレッションの違い
似たような言葉で「カバートアグレッション(Covered aggression)」というものがあります。
カバートアグレッションは、直訳すると「隠された攻撃」です。
「マイクロアグレッション」と「カバードアグレッション」は似ていますが、全く違う種類。
簡単に説明しておくと、こんな感じ。
- 悪気がなく人を傷つける行為や言動を「マイクロアグレッション」
- 良い人をよそおって他人を攻撃することを「カバードアグレッション」
マイクロアグレッションの具体例
<下に続く>
わたしが受けたマイクロアグレッション例
カナダに来て3年ほど。
初対面の人に必ず聞かれることがあります。
カナダ在住の日本人から聞かれることが多いですが、そうじゃない場合もあります。
こんな会話を新しい人に出会うたびに幾度となく繰り返してきました。
今までどれほどカミングアウトしてきたことか…。
「彼女/彼氏いるの?」という質問同様に、異性愛を前提とした会話は多く存在します。
このような会話は、LGBTQ当事者が受ける代表的な「マイクロアグレッション」です。
理解のない相手に予期せぬプライベートの開示を求められるのはLGBTQ当事者にとってシンドイものです。
わたしが友人にしてしまったマイクロアグレッション例
友人(女性)を車で家に送った時のこと。
わたしは友人が二児の母であることを知っていました。
友人宅の窓から見える男性を見て、わたしはこう言いました。
これはカナダ人の友人が指摘してくれたことです。やってしまった…と思いました。
わたしが無意識にしてしまったマイクロアグレッションです。
カナダにはコモンロー(事実婚)という制度があります。
友人のケースは、婚姻届を出さずにパートナーと子育てをしている家庭だったんです。
わたしがあのような発言にいたってしまった理由を考えてみました。
- 「子どもがいる」から当然のごとく結婚していると思い込んだ(思い込み)
- コモンロー制度(事実婚)を知らなかった(無知)
- 男性を見て勝手に彼女の夫さんだと認識してしまった(無意識)
わたしの思い込み、無知、無意識から生まれた発言が相手を傷つけ、不快な気持ちにさせてしまったのです。
学校でよくあるマイクロアグレッション例
保育園や学校のドラマシーンでもよく聞くセリフだったり、実際の現場でも使われている言葉があります。
これってその子どもには「お父さんとお母さん」がいることを前提としている言葉ですよね。
わたし自身、2019年に双子を授かったので同性同士で子育てをしています。
LGBTQ+当事者が子どもを授かる方法は別記事に書いているので、ここでは触れませんが、
同性同士の親を持つ子どもたち、つまりお母さんが2人いる子ども、お父さんが2人いる子どもは世界中にいます。
もちろん日本にもいます。
当事者の子どもたちは「パパとママ」という声かけをされるたびにこう言うんですよ。
これも、無意識的な差別「マイクロアグレッション」の例になります。
またLGBTQ+ファミリーに限らず、母子家庭や父子家庭、
両親が離婚、死別している子ども、
祖父母に育てられている子ども、施設で暮らしている子ども、
養子や里子、ステップファミリーだって中にはいるかもしれない。
さまざまな家族形態があるのにも関わらず、思い浮かべる家族像はひとつだけなんて…。
父母会が保護者会と呼ばれるようになったり、日本でも数年前から動きはありますが、
ジェンダーに関するマイクロアグレッション例
続いて、ジェンダーに関するマイクロアグレッションを紹介しますね。
ザッとまとめてみました。
- 女性の医者を看護師だと思い込む
- 女性の社長に「男性の責任者はいないの?」と言う
- 結婚した子に親が「子どもはまだ?」と聞く(子なしハラスメント)
- 「男なのに字がきれいだね」と言う
- 「女性はこういうの好きですよね」と決めつける
- 母子家庭の子どもに「父親の似顔絵」を父の日に描かせる
- 男性には多め、女性には少なめの料理を盛る
- 「男の子?女の子?」と性別を聞く(トランスジェンダーやノンバイナリー、Xジェンダーの可能性)
- 本人の代名詞(she/he/theyまたは君・ちゃん・さん)を聞かずに会話する
- 性的役割分担を強化する授業や仕事を求める
ツイッターでも実例がありました▼
車買う人は奥さんなのに旦那にばかり説明する男性店員の話を見た。同居人さんがある買い物をした時クレカ(プラチナランク)で支払おうとしたら、女性店員がすかさず「旦那様いらしてるんでしたらこちらにサインを」ってカード所有者名確認もせずに俺に言ってきたこと思い出した。ゴールドまでならば
— CYPHER (@hanenohaetashra) July 3, 2019
LGBTQに関するマイクロアグレッション例
LGBTQ当事者へと発せられるマイクロアグレッションの例をまとめてみました。
- 同性同士ののカップルが手を繋いでいるのをじっと見る
- 男ふたりの写真をSNSに投稿しコメント欄に「ゲイじゃないよ」と書き込む
- 片手を頬にくっつけて「そっち系?」と揶揄する
- 同性カップルをドッキリのネタに使い笑う
- 同性同士なのにどうやって子どもを授かったの?と聞く
- 映画やドラマでLGBTQ当事者を複雑なキャラクターとして描く
- LGBTQ当事者に「どうやって性行為するの?」と聞く
- 「ホモかよ!」と笑う(ホモは差別用語)
- 「イケメンなのに彼女いないの?」と聞く
- 「どっちが旦那でお嫁さん?」と笑う
- 「LGBTQって生理的に受け付けないんだよね」と何気なく会話にする
- トランス当事者を見て「男か女かわからないな」と言う
- 「保護者記載」ではなく「父母記載」になっている(LGBT保護者の無視)
- 生徒の性別を決めつける
LGBTQに関するマイクロアグレッションはフォビアやSOGIハラスメントと深い関係があります。
ホモフォビアから日常的に発せられるマイクロアグレッションは数え切れないほどあり、
人種・民族に関するマイクロアグレッション例
またジェンダーに限らず、人種・民族に関するマイクロアグレッションも存在します。
日本にいる外国人(もしくはそう見える人)に対して
- 「日本語上手ですね!」と言う
- 「お箸の使い方上手ですね!」と言う
- 「いつ母国に帰国するんですか?」と聞く
どちらかの親が海外出身者の方に対して
- 英語が話せると思い込む
- 出身地を尋ねる
- 日本人みたいだねと言う
日本人としてのアイデンティティを持っている人に「日本人みたいだね」がいかに失礼な発言であるか…。
黒人に対して
- ゴリラの絵を描く
- 顔に黒塗りして黒人の真似をする
- カールしている髪の毛をむやみに触る
- 日焼け止めを塗る意味あるの?と言う
- 「アフリカ出身なのに踊れないの?」と言う
- 最初に来店した黒人を素通りして後から来た白人に飲み物を提供する
欧米やヨーロッパ生まれのアジア人に対して
- 出身地を尋ねる
- 「アジア人のわりに背が高いね」と言う
- 手で目を釣り上げる仕草をする
- 「英語が完璧だね」と言う
- 「数学教えてくれる?」と言う
- 日本人ではないアジア人にお辞儀して「こんにちは」と言う
学校現場で特定の人種が書いた教材だけ使ったり、テストや課題の締め切りを宗教の休日に設定することもマイクロアグレッションにあたります。
中国系日本人に対して
中国系日本人がよく受けるマイクロアグレッションも本当に日本でよく聞きます。
- 中国製の商品をバカにする発言(表記を見てメイドインチャイナを蔑む)
- 中国は質が悪い、偽物などと言う
中国と日本のミックスの友人は上記のような発言から、中国出身であることや親が中国人だということを隠して生活することもあるそう。
日常的にあるマイクロアグレッション例
例えば「どこの大学行ったの?」という質問も、その人が大学に行ったことを前提として尋ねているので、
学歴に関するマイクロアグレッションにあたることもあります。
ミドルクラス以上、高学歴の人の特権になるからです。
また何気なく、「親子似てる/似ていないね」という発言も、必ずしも血が繋がっている家族とは限りませんよね。
「どっち似?」と言う会話が誰かを傷つける可能性があるんです。
アメリカ留学してたときに、友だちの家族写真を見て、へ〜あんまり似てないね、と軽く言ったら、僕たちは養子だから、と言われたのを思い出した。
家族=血の繋がりではない。
家族写真を見て、どっち似?という会話が誰かを傷つける可能性があることを忘れないようにしたいhttps://t.co/uZrIQ620Oj
— yukimi wang | Linc Career (@yukimi_wang) October 7, 2020
マイクロアグレッションをしないためには?
マイクロアグレッションをしないためにはどうしたらいいのか、対処法を考えてみました。
- その発言によって相手が傷つく可能性はないだろうか?
- その質問は無知や偏見、興味本位からくるものではないだろうか?
- 相手をステレオタイプに押し込めようとしていないだろうか?
- 自分自身のマジョリティな部分は何だろうか?
- 普段使っている言葉の表現は見直せないか?
①その発言によって相手が傷つく可能性はないだろうか?
わたしたちは人を傷つけないで生きることは不可能ですよね…。
それぞれ生きてきた環境や境遇がちがうので。
だけども、「人を傷つけてしまう可能性について」は考えることができるし、そうならないように努力することはできます。
②その質問は無知や偏見、興味本位からくるものではないだろうか?
わたしは同性同士で子育てをしています。
よく興味本位で聞かれるのですが、「同性同士なのにどうやって子どもを授かったの?」と。
小馬鹿にするように笑いながら質問されたこともあります。
「LGBTQの子どもがいるかも」と想像することは増えてきているけど、「保護者がLGBTQである」とは想像されにくいのが現状です。
手続き関係に「保護者記載」ではなく「父母記載」になっているのも、わたしが親としてよく遭遇するマイクロアグレッションです。
マイクロアグレッションをしないために以下の問いかけが必須です。
- その質問は無知や偏見、興味本位からくるものではないだろうか?
- 失礼な聞き方になっていないか?
- 相手に聞く前に自分で調べることはできないか?
子どもを授かったLGBTQ当事者がよくされる質問は別記事にまとめています▼
③相手をステレオタイプに押し込めようとしていないだろうか?
ステレオタイプとは、社会に浸透している先入観や固定観念のことです。
例えば「○○人ってこう」という無意識の決めつけや思い込みがステレオタイプです。
仮に「○○人はこういう傾向にある」というような研究結果があるとしても、それは個人の能力や個性を完全に無視したものですよね。
女だから、男だから、日本人だから、外国人だから、ゲイだから…
そんなふうな属性に振り回されているから、偏見が助長され、差別が生じてしまうのです。
相手をステレオタイプに押し込めようとしていないだろうか?
「中国製品は〜」「アメリカ人は〜」「子どもは〜」など主語を大きくして話していないか?」というのも改めて見直していきたいところです。
④自分自身のマジョリティな部分は何だろうか?
「自分のマジョリティな部分を理解すること」=「自分の特権を知ること」に繋がります。
例えば、わたしの場合は、LGBTQ当事者であることや女性であることはマイノリティに位置しますが、
健常者であることや日本人であること(先住民でない、黒人でないなど)はマジョリティに位置します。
例えば、わたしのパートナーは、LGBTQ当事者であることや女性であることはマイノリティに位置しますが、
白人であることや英語ネイティブであること、高学歴であることはマジョリティに位置します。
このように自分のマジョリティを分析することで、「差別されずに生きていける特権」が自分にあると学べるんです。
⑤普段使っている言葉の表現は見直せないか?
また、言葉の表現を変えるだけでマイクロアグレッションを防げることもありますね。
恋愛や家族関係を尋ねる場合は「彼氏・彼女、夫・妻」という言葉を使わず、「パートナー」という言葉に変更できます。
「彼氏/彼女いるの?」ではなく、「好きな人いる?付き合ってる人いる?」という言葉も使えますね。
他にも、ママまたはパパではなく、「保護者」や「おうちの人」と言うこともできますよね。
わたしが住むカナダでは、相手の性自認がわかるまでは「he/she」を使わず「they」を使います。
ヨスさんの記事「ポリティカル・コレクトネスとは?」にも書いてあるように、その時代に合った言葉に置き換えることは必要です。
言葉を変えるだけで傷つく人が減るなら、
マイクロアグレッションに遭ってしまったら?
マイクロアグレッションは「こんな小さなことでいちいち傷つくなんて情けない」と思わせることが多々あります。
わたしが実際にマイクロアグレッションに遭遇した時の対処法は以下3つです。
- スルーする
- 自分にエネルギーがあれば伝えてみる
- 「マイクロアグレッション」という言葉を広める
①スルーする
わたしの場合は、遭遇した多くのマイクロアグレッションはスルーしています…。
単純にひとつひとつの無自覚な差別と向き合っていると「自分の心が持たないから」です。
それと、正直なところ、相手の意見を否定した感じになりたくないので、
「あぁ、これはマイクロアグレッションだな」と思っても放置してしまうこともあります…。
②自分にエネルギーがあれば伝えてみる
もしかしたら、自分が指摘することで他のマイノリティの方も救えるかも!!と、勇気が出たときだけは伝えるようにしています。
これはその時の自分のエネルギーによります。
③「マイクロアグレッション」という言葉を広める
まだまだ「マイクロアグレッション」という言葉自体を知らない方もいますよね。
多くの人に「マイクロアグレッション」という言葉を広めるのも被害者を減らす方法のひとつ!
マイクロアグレッションまとめ
この記事ではマイクロアグレッションについてまとめました。
人間は完璧ではありません。
間違えてしまうこともあります。わたしもです。
だからこそ、まずはこの差別を知り、多くの事例を学び、
「自分は加害者になってしまっていないか?」とある意味で加害者意識を持つことが重要になってくるわけですね。
無意識の恐ろしいところは、同じことを繰り返してしまう・謝らない・間違いに気づけない点です。
多くの事例を知り意識することで、再度やってしまう可能性を下げることができ、間違いに迅速に対応して謝ることができます。
「そんなに相手のことを気にしていたらキリがない」と言う方もいますが、
そう思うことこそがマジョリティの特権なのです。
まずはそこに気づくことから。
自分の価値観を押し付けずに、世界には様々な人がいることや様々な性があることを想定することで、
マイクロアグレッションの加害者にならないようにしたいものです!
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合わせてトーンポリシングという言葉も知っておきたいです。
以上、まどぅー(➠プロフィールはこちら)でした。