アウティングとは、どんな意味でしょうか?
2015年に起こった「一橋大学アウティング事件」からアウティングという言葉を知った方も多いかと思います。
この記事では「アウティングとは?」について、わかりやすい事例を交えながら、詳しく解説していきます。
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アウティングとは?
アウティングとは、LGBTQ+当事者の承諾を得ずに、相手の性的指向・性自認を第三者に話してしまうことを言います。
もっと簡単に説明すると、「暴露」が一番近い意味合いです。
例えば、「あの人、ゲイなんだって」などとLGBTQ+当事者の許可なく他人に話してしまうことです。
そのほかの詳しいアウティングの事例は後述しています。
ウワサ話が好きな人が何気なくやってしまいがちですよね。
アウティングの意味・概念
アウティングは悪意の有無に関わらず、人格権・プライバシー権を著しく侵害する行為です。
ホモフォビアから意図的に、性自認や性的指向を暴露されることもあれば、何気ない会話の中で暴露されてしまうこともあります。
アウティングの英語の語源
アウティングは英語で「Outing」と表記されます。
1990年1月29日に米国の作家ウィリアム・A・ヘンリー3世が、
「ゲイをクローゼットから追い出す」という記事で「アウティング」という言葉を使いました。
このことがキッカケになり、「アウティング」という言葉が社会に浸透したと言われています。
クローゼットとはカミングアウトしない状態のことをいいます。
アウティングの歴史
実はアウティングは1900年の初期から問題視されているんです。
いちばん最初のアウティングに関する事件といえば、ハルデン・オイレンブルク事件。
ハルデンがオイレンブルクを同性愛者だとアウティングし、名誉毀損裁判に発展しています。
当時のドイツではLGBTQ当事者がアウティングされ、辞職や自殺に追い込まれている深刻な事態が続いていました。
この事件はとても複雑なのですが、裁判は1907年から1909年まで続いたそうです。
100年以上も前からアウティングが問題視されていたなんて。
アウティングとカミングアウトの違い
アウティングに類語はありませんが、カミングアウトと意味を混合されがちです。
ですが、アウティングとカミングアウトは、全く意味が違います。
簡単に説明するとこんな感じですね▼
- 自分の性的指向や性自認を自分で第三者に打ち明けることを「カミングアウト」
- 自分の性的指向や性自認を勝手に第三者に暴露されることを「アウティング」
上記の違いがありますね。
カミングアウトについては別記事で書いているので、合わせてお読みくださいね。
アウティングのわかりやすい事例
では早速、わかりやすいアウティングの事例を具体的に紹介しますね。
性的指向を第三者に暴露される事例
性的指向を第三者に暴露されてしまうアウティングの例を紹介します。
性的指向とは、恋愛・性的に「どのような性別の人を好きになるか?」ということ。
Aさんから聞いたんだけどさ、Aさんってゲイなんだってよ。
えーそうなの!?
Aさんってハワイでこっそり同性婚したんだってよ!
えーそうなの!Aさんってゲイだったんだね。
実はわたし、レズビアンなんだよね。
そうなんだ!隣のクラスのCさんもレズビアンだよ!
上記の3つの会話例は日常でありそうですが、どれもアウティングにあたります。
性自認を第三者に暴露される例
続いて、性自認を第三者にアウティングされる例を紹介します。
Aさんって元男性だったんだって!
そうだったんだ!隣のクラスのBさんも元男性だよ!
このように、本人の承諾なしに第三者に言いふらすことがアウティングなのです。
他にもあるアウティングの事例まとめ
他にもアウティングの事例があるので紹介します。
トランスジェンダーの方の性別移行前の名前で呼ぶことをデッドネーミングといいますが、
デッドネーミングを本人の許可なく言いふらすことも、アウティングになります。
本名でカミングアウトをしていないのにも関わらずネット上に本名をこぼされたり、
昔の写真を公表していないのに勝手に使われたりすることもアウティングとなります。
例えば飲み会で「彼女は?ゲイなの?」としつこく聞かれ、仕方なく「そうです」と言ったら
次の日には他の人に言いふらされていた、というようなこともアウティングに該当します。
カミングアウトしている人もいれば、していない人もいる。
いずれも本人の許可が必要なんです。
実際にあったアウティングに関する裁判や事例
実際にあったアウティングに関する裁判や事例も紹介しますね。
一橋大学アウティング事件
最初に紹介するのは、「一橋大学アウティング事件」です。
一橋大学アウティング事件とは、2015年に一橋大学の学生さんが、同級生にゲイであることを暴露され、自殺した事件です。
LINEのグループ内で「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」と複数の人に送信されたのです。
自殺の原因は、本人の同意なくアウティングされたこと。
アウティングする側は、LGBTQ+当事者を自殺に追い込むほどの威力を持っているんですよ…。
一橋大学アウティング事件の裁判の判決
一橋大学アウティング事件は、裁判に発展しました。
死亡した学生の遺族が加害者と大学の責任を追及し、民事訴訟を起こしたからです。
悲劇的な事件で本当に心が痛みますが、この事件をきっかけにLGBTQ+におけるアウティングの危険性が世に広まったのも事実。
2020年11月25日に一橋大学アウティング事件の二審が棄却されました。
しかし、裁判ではアウティング行為の重大性について言及されました。
「人格権とプライバシー権などを著しく侵害するものであり、許されない行為である」とハッキリ裁判の判決で出たのです。
アウティングの違法性に言及したのは、日本初の判決になります。
職場でアウティングされた事例
職場でアウティングをされた事例もあります。
職場の上司に、同性パートナーがいることを勝手にアウティングされたのです。
アウティング禁止条例に違反していることがわかりました。
加害した上司は「自分から言うのが恥ずかしいと思ったから、俺が言っといた。一人ぐらい、いいでしょ」と笑って発言していたそう。
その後、上司から日常的に暴言をはかれるようになったことも明らかにされてました。
被害にあった会社員の方は、そのことが原因で精神疾患を発症しています。
アウティングは本人の社会生活に関わっており、「その場のノリ」で笑って済ませていいことではないのです。
アウティングの問題点とは?なぜアウティングしてはいけないの?
では、なぜアウティングをしてはいけないのでしょうか。
一橋大学アウティング事件からもわかる通り、アウティングの違法性は世に広まってきました。
アウティングの問題点をもう少し詳しく解説しますね。
アウティングの問題点を大きく3つに分けました。
- 人格権・プライバシー権の侵害である
- 差別の助長・ハラスメントに繋がる可能性がある
- 精神的苦痛を強いられ、時に命の危険に晒される
①人格権・プライバシー権の侵害である
アウティングの問題点1つめを紹介します。
人格権・プライバシー権の侵害であることが問題点として挙げられます。
- 人格権とは、個人の人格的利益を保護するための権利のこと。(wikiより引用)
- プライバシー権とは、私生活や私事をみだりに他人の目にさらされない権利のこと。
上記の2つの権利を明らかに侵害するのがアウティングです。
一橋大学アウティング事件の一審判決では「人格権・プライバシー権などを著しく侵害し許されない行為である」と明言されました。
「アウティングの何が悪いの?」と開き直ってしまう方を散見したことがありますが、人格権及びプライバシーの侵害であることを知っておいてくださいね。
②差別の助長・ハラスメントにも繋がる
アウティングの問題点2つめを紹介します。
差別の助長・ハラスメントにも繋がることが問題点として挙げられます。
アウティングは差別やイジメ、SOGIハラスメントの助長に繋がっているんです。
先ほど紹介した実例のほかにも、同僚に性別変更したことを勝手に公表され、差別的な言動を受けた人もいます。
長年勤務した職場でアウティングされて退職せざるを得なかった人もいます。
差別や偏見が全くないとは言い切れない社会…。
むしろ、差別や偏見がまだ色濃く残っていますよね。
自分の性的指向・性自認(SOGI)を暴露されてしまうのはリスクがあるんですよ…。
LGBTQ+に関して正しい知識があるかわからない第三者に暴露されるわけですから…。
降格させられた、辞職に追い込まれた、親から絶縁されたという話も本当によく聞きます。
差別やハラスメントを助長することにつながる可能性が大きいので、絶対にアウティングしてはいけないんですね。
③精神的苦痛を強いられ、時に命の危険に晒される
アウティングの問題点3つめを紹介します。
精神的苦痛を強いられ、時に命の危険に晒されることが問題点として挙げられます。
アウティングをする側はちょっとしたウワサ話という認識、または軽い気持ちかもしれません。
ですが、アウティングをされた側にとっては精神的苦痛を強いられるのです。
完全に悪意あるアウティングも存在しますが。
自分からカミングアウトしたわけじゃないので、面白おかしく伝わってしまう可能性もあります。
それに、世界には同性愛を違法としている国、罰則や死刑がある国もあるんですよ。
2020年の東京オリンピックでもLGBTQ+当事者の選手がアウティングされたこともありました。
命にかかわる危険な行為であることから、アウティングはいかなる理由があっても絶対にしてはいけないのです。
アウティングは違法?法律はどうなっている?
では、アウティングは違法なのでしょうか?
現段階では、アウティングを規制する法律自体は存在しません。
ですが、一橋大学アウティング事件の裁判で判決が出たとおり、人格権およびやプライバシー権の侵害行為にあたる違法な加害行為として認識されています。
刑事上の名誉毀損罪・侮辱罪や民事上の不法行為として罪に問われることもあります。
自治体や企業によってはアウティング禁止条例やパワハラ防止を制定しているところもあるので、紹介しますね。
アウティング禁止条例とは?
アウティング禁止条例とは、文字通りアウティングを禁止するための条例です。
2020年6月3日に三重県はアウティングを含むLGBTQ+差別禁止条例を制定しました。
都道府県で制定されたのは全国で初めてですね。
埼玉県にもアウティング防止条例ができました。
他にも、下記の地域でアウティング禁止条例が制定されています。
- 総社市
- 豊島区
- 港区
- いなべ市
- 宍粟市
- 木城町
- 浦添市
- 富士市
- 加西市
- 深谷市
- 江戸川区
- 武蔵野市
- 福知山市
- 岡崎市
- 逗子市
- 美作市
- 志布志市
- 明石市
- 杉並区
- 町田市
- 墨田区
- 日野市
- 豊橋市など
パワハラ防止法とは?
2020年6月から大企業は「パワハラ防止法」が施行されました。
中小企業は2022年4月からの施行されました。
正式名称は改正労働施策総合推進法です。
このパワハラ防止法には「SOGIハラ」や「アウティング」もきっちりと含まれています。
アウティング防止対策
アウティングをしないための対策をまとめました。
本人に確認をとる
アウティングしないためにどうすればいいのか?
それは、必ず本人に第三者に話をしてもいいのか、確認をとることです。
親友にはカミングアウトしているけど職場にはカミングアウトしていないとか、
友達や職場にはカミングアウトしているけど家族にはカミングアウトしていないとか、
当事者は誰にカミングアウトするか選んで話している場合も多いので気をつけなければなりません。
相手からカミングアウトを受けた場合、相手がどこまでカミングアウトしているか聞いておきましょう。
SOGIハラスメントは何か?知っておく
アウティングを防止するために、正しい知識を身につけておくことも大事です。
SOGIハラスメントについて知っておきましょう。
詳しくは別記事にて▼
企業でアウティング防止対策を設ける
企業でアウティング防止対策を設けることで、アウティングの概念を社内で広めることができます。
対策をきちんと示すことで、アウティング被害にあってしまうリスクを減らせますね。
アウティングされたらどう対処する?
では、もしもアウティングされてしまった場合はどうすればいいのでしょうか。
アウティングされてしまった時の対処法を2つ紹介します。
①LGBTQ+を支援している公共機関に相談する
もしアウティングされてしまい、精神的苦痛がある場合、LGBTQ+を支援している公共機関に相談しましょう。
一般相談員が勉強不足・認識不足ということも考え、LGBTQ+に関する活動や支援を行っている団体に相談するのがベスト。
全国のLGBTQ+当事者や、その周りの方が利用できる電話相談一覧表は、下記から確認&ダウンロードできます。
②弁護士に相談する
もしアウティングされてしまい、理不尽なハラスメント対象になってしまった場合、弁護士に速やかに相談しましょう。
アウティングを実際に裁判で取りあげている弁護士に相談してみるのがいいですね。
アウティングしてしまったらどうすればいい?
では、もしアウティングしてしまったらどうすればいいのでしょうか?
①本人に伝え謝罪する
もしもアウティングしてしまったら、本人にすぐに伝え謝罪しましょう。
謝罪して済むことではないかもしれませんが、過ちを認め、適切な対応をすることが何より大事です。
②それ以上広がらないようにする
謝罪が済んだ後は、それ以上広がらないよう適切に対応をしましょう。
被害を最低限におさめることが先決です。
アウティングまとめ
この記事では、アウティングとは?について事例を交えて紹介しました。
アウティングした側は、相手に深い傷を負わせ、時に命を奪ってしまう。
アウティングは「当事者を追い詰める危険な行為」という認識が広まることを心より願っています。
もうこれ以上、アウティングによって尊い命がなくなりませんように。
他にも覚えておきたい「マイクロアグレッション」という言葉があります。
別記事からお読みいただけます▼
以上、まどぅー(➠プロフィールはこちら)でした。
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